研究内容

核小体ストレス応答と PICT1

1. 核小体ストレス応答

 

 細胞内のタンパク質合成装置であるリボソームの生合成は、細胞内の核小体と呼ばれる場所で開始する。核小体は、真核生物の細胞核内に存在するもっとも巨大な構造体であり、膜を持たない細胞内小器官としても知られている。また、悪性度の高いがん細胞において核小体が異常なまでに肥大することが、古来より多くの研究者によって確認されてきた。このことは、がん細胞が活発な細胞増殖を繰り返す際に、大量のタンパク質を必要としており、それを供給するリボソーム自身の生合成もまた亢進しているためであると考えられている。一方で、核酸合成を阻害する薬剤などで細胞を処理した場合や、核小体機能に重要なタンパク質を特異的に減少することにより、リボソームの生合成に異常が生じ、核小体ストレス 応答と呼ばれる反応が引き起こされ、がん抑制因子であるp53タンパク質依存的な細胞増殖の停止へと繋がることが知られている 。そのため、がん細胞の増殖を抑制する新たな治療薬の作用点として、核小体におけるリボソーム生合成に注目が集まっている。


 それでは核小体におけるリボソームの組み立てとは具体的にどういったものなのか。その代表的なプロセスの一つに「リボソームRNAプロセシング」と呼ばれるステップが存在する。リボソームは80種類以上のタンパク質と4種類のリボソームRNA(rRNA)から構成される精巧なRNA・タンパク質複合体である。これらの構成因子の内、18S、5.8Sおよび28S の3種類のrRNAは、はじめに1本の長い前駆体RNA(47S pre-rRNA)として転写される。この長鎖のRNAは、配列内部にスペーサー領域(5’ETS、ITS1、ITS2、3’ETS)を含み、様々なRNA分解酵素の働きにより除去されることで、成熟rRNAへと変換される。


2. リボソーム生合成におけるPICT1の役割


 近年、当研究室は、PICT1と呼ばれる分子がrRNAプロセシングの特定段階において機能的役割を果たすことを明らかにした。PICT1は主に核小体に局在するタンパク質であり、がん患者における細胞内発現量と生存期間の短縮との関連が既に報告されていた。最新の我々の研究により、PICT1が5.8S rRNA前駆体の成熟過程において、RNAエキソソームと呼ばれるエキソヌクレアーゼ複合体をリクルートし、このプロセシング過程を促進する機能をもつことが示された。この結果は、リボソーム生合成とがん細胞の増殖との間に機能的連関が存在することを示唆するものであり、rRNAプロセシングにおいて機能する成熟化因子を標的としたがん治療薬開発への進展が期待される。(宮尾 宗太郎)